06.02/17
耳に残るメロディー
いつかの狂ったラッパ吹きだ
彼はこれまた狂った小説書いて
くるってまわって死んだんだ
『サビ』より
06.02/16
周縁に巻き込まれた
落伍者の群れが
中央線へ駆けつける
1、2の3!
ハイビスカスの楽園へ
『死に急ぐ鯨たち』より
06.02/15
焼却炉では
盛んに抜け毛を
燃やしている
小さなハツカネズミと
ソールの擦り切れた
赤いスニーカー
世も末だね
なんてきれいな言葉だ
言語学者は舌なめずり
『幸福論』より
06.02/14
一風古い音楽だ
ピコピコやってる子供達
手にはトカゲの尻尾
爆竹ならして
カエルが鳴いた
『ピコピコ』より
06.02/13
時計をください
隣の女は口が匂う
腐った山羊が彼女の夕飯
僕はスリッパで
膝の上のをパンとやる
看護婦さんが飛んできた
記録は五メートル八十センチ
まずまず
うなずくひげ先生
『放逐と飛躍』より
06.02/12
川も時間も同じだ、一瞬一瞬違ったものになっていく。
しかし、中田陽はたった今、二度目の時間を経験していた。
既知感に満ちた時間、机の前で足を組み、タバコをふかし、
窓を眺める、その習慣じみた動作。全てが以前体験したも
のだった
『花とカエルとバーボンと』より
06.02/11
逆光の中で笑う母さんに手を取られ、僕らは歩き出した。
握った手は柔らかくてポカポカしている。大きくて優しい
その手をぎゅっと握る、離さないように。そしてゆっくり
と歩き出す。真っ赤な空気が二人を包む。暖かい空気だっ
た。空には気の早いお月様が浮かんでいた。
『黄色い帽子の影』より
06.02/10
読経が途切れる。納棺が終わり、紫色をした彼のまぶたは
白い百合に囲まれる。外では雨が降っている。黒い塊がぞろ
ぞろと外へ出る。
彼の父親は気丈に酒を勧めている。強い人だ。溶け始める
彼の肉体。煙が灰色の空に吸い込まれていく。冷えた弁当が
物凄く臭かった。
思いつき
06.02/09
月はパイプをふかしたように青黒い雲を従えて少しだけ開い
ている窓の中を睨んでいる。夜更けの海に落ちる雨のように
透明で汚されていない藍色をした部屋の中、彼女の顔だけが
白く浮かび上がった。夢で見た笑う月。そんな微笑を浮かべ
て眠る彼女の横で私はもう一度眠りについた。
『いるかの夢』より
06.02/08
さんさんと光る大きな丸い塊。しかしそれは鼠にかじられ
た様に不自然にくぼんでいた。水の底から見た丸い光とは違
い、今目の前にある光はいびつな微笑を浮かべた一枚岩のよ
うにのっぺりとしている。しかし、とても穏やかであった。
全ての世界が青く彩られていて、まるで海の中だ。眼下に広
がる海の色も空も、油絵の藍色を塗りたくったように青い。
ただ月だけが白く光っていた。
『いるかの夢』より
06.02/07
駒はプロイセンのものを使い、盤はフランスのものを使う。
それが彼らのルールだった。始めのうちはそうすることが
フェアなのだと考えていたが、実際チェスに国境などない。
どちらの国のものを使おうがルールが変わるわけではないこ
とをお互い知っていた。しかし、駒と盤を二人が片方ずつ用
意するという習慣は二年経った今でも変わることがなかった。
『孤独なパプリカ』より
06.02/06
この男は若い。まだ苦しい行軍も知らなければ、飢えとの
戦い方も知らない。ましてや寒さのため倒れ、死にゆく友
の手をとりながら何百回、何千回も、繰り返し名前を呼び
続けたことも、銃弾に撃たれ、腐った桃のように崩れる戦
友の顔を見たことなど、けしてないだろう。
『孤独なパプリカ』より
06.02/05
新宿でKと待ち合わせをする。約束の時間までまだ五分。
改札近くの柱にもたれて人の流れを見ていた。疲れた顔
のサラリーマン、若い女が携帯に向かって愛想笑いをする。
「待たせたね」
振り返ると白い仮面を被った男が立っている。辺りを見
回すが、皆急ぎ足。間違いなく私が呼ばれている。ジャケッ
トにハンチングはいつものKのファッションだ。男は肘を
かきながらちらりと周りを気にする。
『宙吊りの仮面』より
06.02/04
光の届かない水の底を巨大な魚が通り抜け、砂塵とプランクトン
を海中に漂わせる。その中で横たわる出口の塞がれた貝殻が球状
をした無数の空気の粒を地上に向かって吐き出していた。
『いるかの夢』より
06.02/03
それは昨日のことだったような気もするし今日のことのような
気もする。気がつけば男は黒い豚を夢中で追いかけている最
中だった。
『リンゴもしくは猿の話』より
06.02/02
浅田はそういうと、一足飛びにフードたちの前に躍り出た。
右足、左足、虚足と実足の絶えまない回転。素早いステップ
を繰り返しながら、顔の高さで構えた拳を軽く揺らす。フー
ドの男たちはシャベルや竹やりを握りしめると、気合い一閃、
浅田に向かって飛びかかってきた。
『花とカエルとバーボンと』より
06.02/01
川も時間も同じだ、一瞬一瞬違ったものになっていく。
しかし、中田陽はたった今、二度目の時間を経験していた。
既知感に満ちた時間、机の前で足を組み、タバコをふかし、
窓を眺める、その習慣じみた動作。全てが以前体験したも
のだった
『花とカエルとバーボンと』より
06.01/31
朝目が醒めると僕はいつも自分が本当に自分なのかどうか
確認をする。鏡の前に立ちじっと目を見て、ほくろの数を数える。
うん、六個ある。間違いない、これは僕自身だ。この習慣は友達
から借りたSF小説を読んでから付いたものだった。
『靴のサイズは?』より
06.01/30
「シャガールは好き?」
空をとんだ男がウェディングドレスを着た花嫁らしき女に
キスをしている絵が載っている。中田はその絵を見るのは
初めてだった。シャガールと言う名前も、活字でしか見た
ことがなく、実際の作品は全く見知っていなかった。それ
がシャガールの絵がどうか判断できなかったが、魚のよう
に空を泳ぐ男を見て、中田は幸せそうだと思った。
「ニジマスみたいだね」
『花とカエルとバーボンと』より
06.01/29
「あいにくトルエンは切らしてる」
「じゃあニトロでもいい」
「なんだ橋でも爆破に行く気か? 薬に使うって言うから探してやったのに」
「お袋の心臓が干からびちゃって。しかし今日は嫌な天気だな」
「孝行息子だな。何周忌になるんだ?」
『花とカエルとバーボンと』より
06.01/28
太陽はきっと空の色に飽きていて、
小さな人間が真っ赤な血潮を吹き上げることを
待っているのだ。
『孤独なパプリカ』より
06.01/27
「人間には必ず影が必要なんじゃ。
もし影が無くなれば遠心力に引っ張られ宇宙に飛んでいっちまう。
人間が地球にしっかりと根付いているのはお前さんたちのおかげなんじゃから」
『黄色い帽子の影』より
06.01/26
「太陽は嫌いだな」
そういって彼はカーテンを閉めて私のもとへ凱旋する。
埃たちは一斉にダンスをやめてかき消え、
小さな解放区となった二人の部屋は淡い青色に染まった。
『いるかの夢』より